映画「ナイロビの蜂」と雑誌「THE BIG ISSUE」
2006年5月24日
この日曜日に映画「ナイロビの蜂」を観る。最近映画はいろいろな割引があって、ぼくの場合「夫婦50割引」というのをよく利用する。この割引を利用するべく、50歳より少しお若いお姉さまたちからお誘いがかかるからである。カップルのどちらかが50才以上であれば、ひとり1000円で入場できる。チケットを買うときにどちらかが50才以上の年齢を証明できるものを持っていれば、結婚届のコピーのようなものは要らないから、本当に夫婦でなくてもよろしい。姉妹・恋人・秘匿したい愛人など誰でも良い。そんなこんなの割引利用で映画を見る機会が多くなった。
この映画「ナイロビの蜂」はブラジル人監督のフェルナンド=メイレレスがジョン=ル・カレの同名の原作(原題はThe Constant Gardener)を映画化したもので、イギリスの外交官の妻がケニアの政府とヨーロッパ資本の製薬会社の癒着・利権に気づき、そのレポートをヨーロッパのNGOに送ろうとして、殺害される。製薬会社は現地の貧困層の人々に医療支援という名のもとに、結核やHIVの薬品を治験というより人体実験に近いものをやっている。治験なのだから合法なのだが、ヨーロッパの基準では治験を許可されるような段階に至らない薬品を、ハードルの低いアフリカで治験を行うのである。現地の政府もこの人体実験に協力し、利権に群がる。不審に思った夫は真実を突き止めるが、彼もまた妻と同じ場所で、同じように殺害される。ただ夫のほうは殺害のまえに、レポートをロンドンに居る知人に送っている。
この映画を見ているうちに、最近読んだ「THE BIG ISSUE」(49号)の記事を思い出した。この雑誌は書店では販売されていない。ホームレス自立支援の目的で出版されている雑誌で、ホームレスの人々が自ら街頭で販売している。200円である。イギリスで創刊されたのだが、いまは日本語版が独自に編集出版されているが、イギリスで採用された記事も翻訳掲載されていて、日本のマスコミとは記事の切り口が違うので、読んでみるとけっこうおもしろい。博愛精神というようないかがわしい動機ではなく、ぜひ一見されることをお勧めします。
ところでこの号の中で、アフリカ大陸南部のボツアナ共和国政府が、先住のブッシュマンを彼らの居住区から強制退去さているということが報告されている。カラハリ砂漠に何万年も前から居住するブッシュマンの人々を「近代化させる」という名目で、保護区から強制退去させるというのである。ブッシュマンの居住区の地下には金やダイアモンドの鉱床が眠っている推測されている。南アフリカ・アメリカ資本のデビアズという宝石流通会社がボツアナ政府(こちらも植民地独立で生まれた黒人政府である)と利権を共有しているために起こっている「事件」である。こういう図式はいまもアフリカ大陸のあちこちに見られるようである。このような事象がいまだに綿々と続いているのを見聞きするたびに、アフリカ大陸ではまだまだ植民地状態から脱していないということに気がつく。
「ナイロビの蜂」はいい映画だと思う。アフリカの自然風景の映像、スラム街の映像もいい。この映画には公式の日本語のホームページがある。www.nairobi.jp/映画を見た数日後にこのウェブサイトを見つけ覗いてみた。映画会社はこの映画をラブストーリとして宣伝しているようである。せっかくの映画をこんな切り口の宣伝で売り出してよいものであろうか。
実は、いま人気沸騰中の「ダ・ヴィンチ コード」のチケット売り場での行列を横目に見て、この「ナイロビの蜂」を観るキッカケになったのは、これまた「THE BIG ISSUE」の50号の記事なのである。
この号の最初のほうに「ナイロビの蜂」で外交官の妻役で助演しているレイチェル=ワイズのインタビューがある。
まずインタビュアーが
《「ナイロビの蜂」で描かれている社会的良心はすばらしかった(中略)政治と企業との癒着、先進国による発展途上国の搾取に世間の関心を向けさせるための映画として成功している》
という感想に対して、レイチェル=ワイズは
《その意見は非常に危険だと思う。・・・もともと娯楽作品を、サスペンスとして書かれたもので、期せずして、激しい情熱や愛情、社会的良心について描かれているだけなの》
と答えている。
インタビュアーは、ワイズが苛立っていて、居心地悪そうにしていたと書いている。「それは隣室に居る他の人間がこのインタビュに耳を傾けていたからにちがいない。政治の話をするのが好きな映画会社や俳優はめったにいない。そのことによって、興行成績がさがったりキャリアに傷がついたりするのを恐れる」
レイチェル=ワイズはいう
《業界自体が政治にかかわる余裕がないの。映画界は政治にかかわることを怖がってる。誰もがびくびくしているわ。》
つづく「THE BIG ISSUE」のこの記事には、原作者ル・カレのロイター通信でのインタビューを引用している。
《この映画はフィクションではあるけれども、一歩踏み込んで、人間の行いの最も暗い部分までしっかり描き出しているんだ。愛国者としての私たちの義務は、そこまで深く入り込み、メディアで伝えられていないギャップを埋めることにあると思うからね》
日本のメディアはアフリカというと、象やライオンなどの動物が住むサバンナの風景を映し出すことがほとんどである。ぼくもこういう映像を見るのは好きであるが、アフリカの人間の現実はずいぶん違うところにある。これも政治にかかわることを報道するのが怖いのか、遠い世界の向こうのことで報道価値がないのか。サッカーワールドカップのドイツ大会の四年後は、ボツアナの隣りの南アフリカで開催される。
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